赤イ月          濃紺の夜空が赤い色に染まる時。これはそんな赤い月のお話。  …月には二人の男が住んでいました。  二人は永遠の命を持っていました。  彼等の仕事は、月のライトを点けることです。  彼等はかわりばんこに仕事をしたりしません。  いつも二人で、仲良く一緒にライトのひもを引っ張ります。  パチリ。  これで今夜道を歩いている人もつまづくことなく歩けます。  いつも仲良しの二人でしたが、彼等には悩みがありました。 「死ぬってどんなことなんだろう」  そう思ったのはもうずっと前のことです。  ある日地上を眺めていた一人の男が、とあるものを見つけました。  一人の男が、先のとがった鉄で、目の前にいた女を叩きました。  女はの肩から胸にかけて、着ていたものは切れ、そして真っ赤なものが吹き出しました。  とてもきれいな赤色をしたそれは、男の体に降り注ぎ、地面に降り注ぎました。  女は一瞬大きく目を見開いた後、何かを言いながらばたりと倒れました。  男は目から水を流しながら、その場に座り込んでいました。 「あれは何だろう」 「女はもう動かないよ」 「もしかしたらあれが死ぬってことなのかな」 「じゃあ、やってみようよ」  男の一人は月のかけらを削って、先のとがったものを作りました。 「じゃあいくよ」  男の一人はもう一人のことをそれで叩きました。  叩かれた男は、地上の女と同じように真っ赤なものを吹き上げながら、ばたりと倒れ込んで動かなくなりました。 「気分はどうだい?」  男は訪ねますが、何も答えは返ってきません。  揺すっても叩いても、月のライトを点ける時間になっても男は起きません。 「もしかしたら、死ぬってことはもう二度と話せなくなるってことなのかな」  男は取り返しのつかないことをしてしまったことに気がつきました。  一人でライトを点け、一人で暮らしてゆく。  そんなことは考えたこともありません。  男はさみしくてさみしくて仕方ありません。  目からはいくら拭いてもいくら拭いても、水があふれてきました。 「もう一人でいるのは耐えられないよ」  男はあのとがったもので、自分の胸を突き刺しました。  真っ赤なものが飛び散り、地面をぬらします。  でも、どうしたことでしょう。  痛くもなければ倒れ込むこともありません。  死ねないのです。 「どうして、どうしてなの?」  彼は何度となく、自分の体中を突き刺しました。  真っ赤なものはいくら流れてきても、死ぬことはできませんでした。  彼が死ねないのは、彼を作った男の仕業でした。  もしも彼が死んでしまったら、月のライトを点ける人がいなくなってしまいます。  男は彼を不死にしたのでした…。  月。  それが赤く輝く、悲しい理由。