LARK  手の中にはつぶれたLARKの箱。 中身はない。 さっき最後の一本を喫い終えた。 出会いは突然に訪れる。 でも、別れもまた同じ。 突然やってきては僕を喜ばせて、不意に悲しみのどん底へと叩き落とす。 どこかの誰かがそんな悲劇に手を叩いて、賛美の言葉を贈っているのかもしれない。 誰も憎くもないし、嫌いでもない。 ただ、ちょっとだけ、自分が嫌いになっただけのこと。 ただ、ちょっとだけ、自分に腹が立っているだけのこと。 あの時こうしてればなんて、もう思うのさえもいやになる。 人生は後悔の連続なのかもしれない。 他人の気持ちもそうだけど。 自分の気持ちってやつが、いまいち僕にはわからない。 心を覗くメガネ…… 他人の心が覗けたらってよく思うけど、もしも僕がそれを持ってたら、 真っ先に自分の心を除くんだろう。 まだ僕が君のこと好きなのか。 それとも、ただ冬の寒さに負けそうなのか。 「ごめんなさい。あなた大切な人だけど……。」 人を好きになんてなれなきゃいい。 でも、人を好きになりたい。 なんて矛盾してるんだろう。 あいつがいなけりゃ不幸にはならなかった。 でも、あいつは僕に幸せも教えてくれた。 今日、僕はあいつを呼びだした。 「駅で待ってる。」 ただ、それだけ言って電話を切った。 時間も告げず、返事も聞かず。 今、僕はその場所にいる。 やめてたタバコを買った。 やめろと言われたタバコを買った。 LARK。 タバコを取り出し、火をつける。 久しぶりの感触。 肺いっぱいに喫うと少しむせそう。 僕は決心していた。 このタバコが無くなるまであいつを待ってみようと。 たとえあいつが来てくれても、何も解決しないかもしれない。 また不幸を重ねるかもしれない。 けれど、あいつにもう一度あいたいと思った。 もう一度……。 ……僕の手の中には、つぶれたLARKの箱。 中身はもう無い。