「君が消えゆく前に」(題指定「JINPINO」様:500HIT記念キリ番小説第2弾) 触れたい。君に触れてみたい。 その肌の感触、そしてぬくもり。 一度でいい、ただ一度でいい。 君をこの手に抱きしめたい。 僕はもう何年こんな事を続けてきたのだろう。 雨の日も、風の日も。 虹のあの日も、雪の日も。 そこにたたずむ君を見つめ、僕は生きてきた。 ああ、僕はいったい、あと何年こんな事を続けるのだろう。 ……だが。 だが、それをあと何年続けた所で、僕の願いが成就する事は絶対にありえない。 そう。 絶対に、ありえないのだ。 触れたい。あの人に触れてみたい。 その手の感触、そしてぬくもり。 一度でいい、ただ一度でいい。 あの人の手の中で眠りたい。 私はもう何年こんな事を続けてきたのだろう。 雨の日も、風の日も。 晴れたあの日も、雪の日も。 そこに立ちゆくあなたを見つめ、私は生きてきた。 ああ、私はいったい、あと何年こんな事を続けるのだろう。 ……でも。 でも、それをあと何年続けた所で、私の願いがかなう事は絶対にありえない。 そう。 絶対にありえない。 君が消えゆく前に。 あなたが消えゆく前に。 ああ、ただ一度、ただ一度でいい。 君を……。あなたを……。 それから数え切れぬほどの時が過ぎた。 その日。二本の老木が朽ち果てた。 それは互いをかばうように抱くように、重なり合って、倒れていた。