「あくしゅ」 題指定:ぶるーな様  「800HIT」記念 カタカタ……。 今日も今日とて、パソコンに向かいキーボードから文字を打ち込む。 カタカタカタカタカタ……。 この単調な作業。 カタカタカタカタカタカタ、タカ……。 だが、例え、この作業が永遠に続いたとしても。 カタ、カタカタカタ、カカカカカカカタ……。 ボクは飽きることも苦痛に思うことも決して、ないだろう。 カタカタカタカタカタカタ、カ、カタカタカタ、カン。 「よし、……おわった。」 ◆        ◆  時は2099年。  ネット世界の急速な発展がこの百年の革命だというが、こうして生まれてから二十二年、 パソコンに向かってきたボクらから言わせれば、そんなニュースも特にめずらしくない。  最近なにやら、IXAMとか何とか言う新しいインターネットも騒がれているけれど、 実用化のメドも立っていないようだし、百年の間にキーボード以上の入力装置を考えつかないのだから 人間も大したことはない。    二十一世紀ももうすぐ終わろうとしている。  前世紀は産業革命やらなにやらで人間というものは爆発的に技術革新したらしいが、 この一世紀は言うなれば停滞の一言に尽きる。  月には行けても、火星へ行くにはあと百年はかかるらしいし、 ガンやエイズを克服しても次から次へと新しい病気が生まれてくる。  不老不死なんて夢のまた夢……。  パソコンの画面にはボクの走らせたプログラムの文字が、ものすごい早さで流れていく。  起動まではもう少しかかりそうだ。  ボクはふと、パソコンの横につながれた小さな箱に目をやる。  真ん中にぽっかりと口を開けた小さな箱。  パソコンと同じ薄灰色をしたその箱は、まるで穏やかに眠るようにそこにあった。  手を伸ばす。  人工物の固い質感。  モーターの回転によるほんのりとした熱。  そっと、まるで赤ん坊に触れるように静かに撫でる。  …………。  ぼやける風景。  いつの間にか泣いているボクが居た。  ピィィーーーーーーーーーー。  感慨を劈くように電子音が鳴り響いた。  プログラムが終了したのだ。  ボクは再びパソコンに向かい最後の調整にキーボードをたたく。  景色はもう、滲んではいない。  百年という時間。  二十二年という時間。  人間は「克服する」ことなど決して出来ないだろう。 でも、人間は努力することが出来る。  考えることが出来る。  その、小さな結晶がこの箱なのだ。 「……よし」  ボクはその小さな結晶の中にゆっくり手を入れた。  それはホントに小さな結晶。  まだ、これしかできない。  声も、表情も、他の部分もまだ、完成していない。  差し込んだ手にふと暖かい、懐かしい感触が走る。 「……ひさしぶりだね。」  ボクは目を閉じてそっと呟いた。                END 作者注:この作品の完全版はゼロ企画フリーペーパー「リアル」4号に載っています。     HPのものと内容は同じですが、体裁が違っています。     この作品は一応、その体裁込みで一つの作品ですので、     リアルの手に入らない方用にネットにもUPしましたが、ぜひ本誌の方でご覧下さい。     欲しい方には郵送も致しますので、メールにてご連絡下さい。